インドネシア
Activity Report from Indonesia Vol.03 (2018 April - June)
from 矢田誠

マラサリ村の棚田を巡る住民たちの意識の変化

マラサリ村の主要産業は農業であり、その中心を担うのが年に2回の収穫が行われる稲作です。特に村の中心部に位置する棚田はとても見事なもので、エコツアーを通じて村を訪れた人々を必ずや魅了する、村を象徴する存在でもあります。

今回はそんな棚田を巡る人々の意識の変化について紹介します。

過去3カ月の活動

マラサリ村の中心部に位置する棚田 ①

マラサリ村の中心部に位置する棚田 ②

棚田を背景に自撮り撮影する観光客

マラサリ村は行政区画上、西ジャワ州ボゴール県の県境に位置しており、県内でも最もアクセスの悪い地域のひとつです。村までの道路は幾重にも曲がりくねった山道で、道路の舗装状況も良くないことから、ボゴール市内から村までの車で3.5時間の道のりはなかなかに厳しい道中となります。
そんな山道を苦労してたどり着いたマラサリ村で、観光客が最初に目にするのが村一番の棚田です。ほぼすべての観光客が車を降り、その棚田の美しさに見ほれます。観光客の多くはスマートフォンを取り出し、棚田をバックに自撮り撮影に夢中になります。


穂刈り鎌を用いた伝統的な稲刈り ①

穂刈り鎌を用いた伝統的な稲刈り ②

地元政府発行の観光促進情報誌の表紙を飾るほどの素晴らしい景観と感じられるのですが、意外にもマラサリ村の住民からはその素晴らしさが実感されていないことに驚いたことがあります。
マラサリ村で観光開発の計画が持ち上がり始めた5年前のことです。田んぼで農作業をしている住民らと立ち話をした際、棚田の美しさについて話題となりました。ところが年配の方々は「子供のころから毎日目にしているため、この棚田が特別な存在には思えない」とのことでした。田んぼは働く場所であってその美しさを愛でる対象ではないことから、「よそ者がこの棚田を目当てに遠くからマラサリ村に遊びに来て熱心に写真を撮っている気持ちが理解できない。一体何が特別なのですか?」と質問され、どういう言葉を返せばよいのか答えに窮したことを強く覚えています。

その後の住民の意識の変化は興味深いものでした。まずは村の若者たちから声が上がります。年配の人々に比べ頻繁に都市部と村を行き来する若者にとっては、やはり村の棚田は誇れる財産だと思われたようです。エコツーリズム開発が始まった際にも、村の魅力として一番に挙げられたのが棚田景観であり、村の農業をベースとした伝統文化でした。
若者たちが中心になってエコツーリズムのアクティビティを考案する際にも、農作業体験はマラサリ観光の目玉のひとつとして取り上げられました。
はじめは半信半疑だった年配の住民たちも、観光客が棚田景観の美しさを口にし、稲刈りなどの農作業に参加したいという要望に応えるうちに、少しずつ考えが変わってきました。「これまでに価値があると思ってもみなかった風景や日々の自分たちの作業を、街から来る人たちに関心を持ってもらえることが嬉しい」という意見が聞かれるようになるまでに時間はかかりませんでした。
それだけでなく、「自分たちの文化をもっと多くの人に知ってほしい」という声や「このマラサリ村に生まれ育ったことを誇りに思う」という感想も聞かれるようになってきました。
エコツーリズムの開発と観光客とのコミュニケーションを通じて、住民自身が村に誇りを感じる結果に繋がっていることに、プロジェクトに携わる私も喜びを感じています。
このような経緯もあり、村の若者からは、棚田景観と伝統的な稲作文化の紹介に力を入れたいという要望を受けています。
プロジェクトでは、まだマラサリ村を知らない多くの人に村の魅力を知ってもらえるよう、棚田の美しさを前面に押し出した映像を作成しました。


伝統的な米搗き体験

また、単に美しさを伝えるだけでなく、マラサリ村の稲作文化を解説したブックレットの制作も準備が進んでいます。マラサリの魅力を都市部の人たち伝えるとともに、伝統文化が若い世代に継承されるような環境教育教材となるようなブックレット作成に向けて、村の若者たちによって協議が進められているところです。


稲刈りを体験する観光客
今後の活動

上に記したブックレット作成のための情報収集を進める予定です。村の若者たちが年配の方々に話を伺いながら、マラサリ村の稲作文化の記録を継続していきます。
また、発掘された村の魅力を観光客にどのように伝えていくのかも課題になっています。ボゴール県内で地域住民による観光開発の経験を有するCIインドネシア事務所に協力を仰ぎ、マラサリ村住民によるCIインドネシアの活動地へのスタディツアーが予定されています。

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